「猫のまんま」春の段4

春の段 その4 wrote: 20170423

「贈り物」

おくりもの【贈り物】      出典:goo辞書
相手を喜ばせるために私的に贈る物品。

<新解釈>おくりもの【贈り物】  松永解大辞典より
自分の愛するものへ自分の大好物の食べ残しやとっておきのおもちゃ、昆虫(バッタ・蝉)
ネズミ・ヤモリなどを相手の寝床の枕や相手の食卓にそっと置いておく物。
しかし、その行為とは裏腹に贈られた相手がその物に驚き叫ぶこともある。
時として、その存在に相手が気づかずその物がミイラ化してしまうこともある。

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「きいちゃん、きいちゃん!来て〜」
スタタタ、、、
「どうした?」

「見て!バッタやヤモリがたくさん置いてあるよ、誰か置いたのかなあ?」
「うん?黒じい?」
「きいちゃん!黒じいだ。」
「そい、黒じい様子が変だぞ!動けなくなってる。父ちゃん呼んで来てくれ!
急いで呼んで来るんだぞ。」
「うん、わかった」

タタタタ、、、
「父ちゃん、父ちゃん!来て〜」

「黒じい!どうした?おいらがわかるかい。」

「、、、ああ、わかるさ。きい、、、と、、、そいだろ。わしはもうダメみたいじゃなあ。手足が痺れて動けなくなってしもうたよ。ここ数日は目もかすんでなあ、匂いもわからなくなってしまった。食べ物は捕まえたが食べられそうにもない。」

「黒じい、しっかりして!今そいが父ちゃん呼んで来るから。動物病院に連れていって貰えばきっとよくなるから、もう少し頑張って。」

「いや、わしは、、、行かん!この食べ物はお前たちの大好きな父ちゃんとやらにあげてくれ。毎日、小魚とおかかを置いてくれたお礼じゃ。うまかったなあ。以前はお前たちが食べているカリカリとやらを置いてくれてたんじゃがわしはどうにも匂いが嫌いでな、食べることができなかった。」

「黒じい!父ちゃん連れて来たよ。父ちゃんがゲージを取って来るからね」

「いや、もう、、、無駄じゃ!自分のことはよくわかっている。お前たちにも最期の別れをしなければなあ。きい、、そい、、、。野良として生まれて来た俺は野良で死んでいくんじゃ。
人間に愛されることなく、わしもまた人間を避けて来た。時には人間の子供やわしと同じような年寄りに何度か出くわして体を触られそうになったけど人間の匂いは嫌いじゃった。
お前たち二人は父ちゃんとやらに愛されておるじゃろ?人間に愛された猫はその人間が生まれ変わった時にお前たちも一緒に生まれ変わってまた愛される運命なんじゃ。
だがな、わしのように人間から愛されなかった野良猫はもう生まれ変わることはできんのだ。
つまり、野良の人生は一度きりで終わってしまう。
だが、お前たちはこれからも永劫、人間たちに愛されていくんじゃよ、、、」

「黒じい、あまりしゃべらなくていいよ。そい、父ちゃんままだ?」

「今、来たよ!黒じい!しっかり!」

「、、もう、、時間が、、来たようじゃな。お前たち、、二人とも、、父ちゃんと
幸せに暮らすんだぞ、、父ちゃんは本当に優しい人間じゃ、、それ、、は、、わ、し、にも、、、。」

「黒じい!」

「黒じい!わ〜ん、黒じい〜。」

「そい!泣くな!黒じいの最期をしっかり見てあげるんだ。黒じいは一人で逝くんじゃないんだ。おいらたちと父ちゃんにちゃんと看取られて虹の橋を渡るんだからな。」

「黒じい!」

「黒じい〜」

「、、、、」

「、、、、」

 

「きいちゃん、僕ね、父ちゃんにお願いしたいことがあるんだ」

「何だい?そい」

「黒じいをね、家の先のね今、満開に咲いている桜の樹の側に黒じいのお墓を作って欲しいんだ。僕らがさ、忘れてしまうかもしれないから。来年、また次の年の春に桜が咲いたらひょっとしたら黒じいを思い出すかもしれないでしょ?だから、、、。」

「そうだな、おいらたちは2ケ月も経てばきっと悲しいことも全て忘れてしまうかもしれない。でも、父ちゃんは人間だからきっと覚えていてくれる。」

「うん、きいちゃん、そうだよ!だって僕たちの父ちゃんだもの」

「そうだな、そい。」

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・・・・続き

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春を告げる天使たちが降りてきた

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